岩本康志教授の無税国家誕生

岩本康志教授の一連のtweet

日銀と私は立場が違います。私は学者の意見を表明するので,無益無害のこと(単純な量的緩和)はしなくてもいい,と言っています。日銀は,量的緩和が有効という意見があることも踏まえて政策を実行しなければいけない。

結果的に今は自然体で量的緩和になっていますが,日銀は意図的な量的緩和は選択していません。効果と副作用の比較考量での判断でしょうが,効果については,効くかもしれないし,効かないかもしれない,という考えではないかと推測します。

非不胎化介入は理念的な世界でしか存在しませんが,それに近いことを量的緩和で実行する場合,この量的緩和は現状では「偽薬を処方する」ことになると考えられます。短期債を購入しての量的緩和だから,理論的には無益無害

しかし,患者(政治家,一部の国民)が切望しており,プラシーボ効果で効く可能性が万が一でもあるのであれば,偽薬を処方することにも合理性があるかもしれません。そうして処方するなら,リップサービスも治療の一環になります。

ただし,ご指摘のように訴えられないようにしないといけないので,政策当局の倫理を維持して偽薬を処方するには,非常に慎重な発言が要求されるでしょう。

「追加金融緩和がなければ為替介入が成功しない」という意見をよくみかけますが,疑問に思います。

為替介入と金利政策は別のものです。政策金利を変える方が,為替介入よりも為替レートに明確な効果があるでしょう。政策金利が変更されないもとで,為替レートに影響を与えようとするのが為替介入です。ゼロ金利のもとでは,金利政策は非伝統的政策手段に置換されます。

介入の成否を決めるのは,投機筋に対して政府(財務大臣)が徹底的に闘うかどうかです。もちろん日銀は介入が成功するように協力しますが,そもそも政府単独でも勝てるものでなければ「為替介入」の名に値しません。

(http://twitter.com/iwmtyss/status/24842403204)


つまり岩本氏は、非不胎化、不胎化は結局、金融政策如何なので区別はない。金融緩和したかどうかだけを見ればいいということでこの点に関しては白川総裁と同じ立場にある。


しかし、問題は次にある。
岩本氏は量的緩和を「無益無害」と表現している。それ故に「不胎化介入」と「非不胎化介入」は効果が同じで、為替レートに影響を与えないと断言している。


ここで白川総裁の考えと乖離ができる。白川総裁は「金融政策の変化は為替レートに影響を与える」と現代の金融政策で書いている。ちなみにここでは「伝統的」とか「非伝統」とは区別していない。


岩本氏はこの「伝統的」と「非伝統的」で区別し、非伝統的な量的緩和は無害無益としているが、もし本当に無害無益であるならば無税国家の誕生である。


フィナンシャル・レビューの99号では、「量的緩和期の外為介入」というタイトルで、渡辺努氏と藪友良氏が論文を書いている。

ここでは非不胎化介入について為替レートに効果があると書いている。

介入によって供給された円資金は恒久的に市場に残ると仮定する。恒久的に市場に残るということは、経済が流動性の罠から抜けだして正常化した時点では金利は正の水準に戻っているはずだから、円売り介入による円資金の追加供給はこの将来時点の金利を下げる効果をもつ。この金利低下は将来時点で円安を発生させるはずであり、そのことが現在時点で市場参加者の予想に織り込まれると現在時点での為替が円安方向に変化する。このような期待チャンネルは円売り介入が直ちに不胎化されてしまう場合は働かない。その意味で、現在の金利がゼロであったとしても、介入が不胎化されているか否かによって為替相場への効果が効果が異なる

これは当然の結果であって、非不胎化介入=日銀の追加緩和が為替に影響を与えないというのは暴論だろう。



ここからは余談だが岩本氏はかつて以下の通りブログに書いている。

リフレ派の考えでは,リフレ派が世界標準の経済学で,リフレ政策に懐疑的な日本の経済学者は国際的に通用しないトンデモだということのようだ。事実に反する決めつけだが,それにかぶれてしまって,リフレを理解すれば素人でもトンデモ経済学者を論破できるという風潮があるかのようだ。もちろん専門家が間違っていて素人が正しいことがないとは言わないが,統計的には逆の場合が多いだろう。金融政策の議論も生半可な理解で,正しいが複雑な議論をトンデモと決めつけ,仲間内で確認しあって悦に入っていることを見かける。

日銀理論の考えでは,日銀理論が世界標準の経済学で,日銀理論に懐疑的なノーベル経済学者は国際的に通用しないトンデモだということのようだ。事実に反する決めつけだが,それにかぶれてしまって,日銀理論を理解すれば日本の経済学者でもトンデモ経済学者を論破できるという風潮があるかのようだ。もちろんノーベル経済学者が間違っていて日本の経済学者が正しいことがないとは言わないが,統計的には逆の場合が多いだろう。金融政策の議論も生半可な理解で,正しいが複雑な議論をトンデモと決めつけ,仲間内で確認しあって悦に入っていることを見かける。


クルーグマンバーナンキに反論の論文でも書いたのか。
量的緩和が無益無害であるという論文を一刻も早く拝見したいものである。