日本銀行のバランスシートとCPI

岩田規久男教授はエコノミスト2002.5.28号において以下のように書いている。

第3は、過去のデフレ不況からの脱出の経験や、現在の法人企業の資金余剰の状況に照らして、デフレからの脱出のために貸出の増加は不可欠の条件ではないという点である。アメリカ経済が大不況から、日本経済が昭和恐慌からそれぞれ脱出した際にも、貸出の増加は株価の上昇やマネーサプライと生産の増加に約3〜4年も遅れて実現している。

つまり、デフレからの脱出局面での生産の回復は、必ずしも貸出の増加を伴うものではなく、むしろデフレからの脱出が実現して初めて貸出が増加したというのが事実なのである。マネーサプライも回復の初期は、貸出のルートを通じてではなく、銀行の証券購入のルートを通じて増加している。

このような現象が生ずるのは、デフレ予想の終息とインフレ予想の形成とによって生じた資金需要は、当初は、デフレ下でのバランスシート調整によって積み上がったキャッシュによってファイナンスされるためである。デフレが続くと、本来は借り手である企業が資金余剰主体になったり、家計が平時であれば過剰なほどの現金を抱え込んでしまう。このため回復の初期においては、そうした資金で設備投資や消費支出等のための資金をファイナンスできるのである。

アメリカの大不況の1930〜33年や昭和恐慌期と同様に、現在の日本でも法人企業にキャッシュ・フローが大きく積み上がっている。従って、インフレ・ターゲット付き量的緩和政策の効果により、設備投資需要や耐久消費を中心とする消費需要が増加すれば、それに伴う資金需要は企業や家計の内部資金によって満たされ得るのである。それにより、大企業の生産が拡大すれば、大企業と中小企業の取引も活発化するから、借入金に依存する度合の大きい中小企業は大企業からの信用供与(企業間信用)を受けて生産を拡大することが可能になる。


この点は、岩田規久男教授が第二回デフレ脱却国民会議でも強調された点であり、日本銀行がマネタリーベースを拡大してもすぐマネーサプライが増えるわけでなく、デフレ下で蓄えたキャッシュから設備投資や消費にあてる。
その後に銀行から借りるということであり、それには大恐慌の時には3〜4年かかったとしている。

ここで日本銀行のマネタリーベースと総合CPIの関係を描いてみよう。
ラグは、以上の点から3年とおく。データは日本銀行及び内閣府統計局より




なおCPIの特徴として2010年4月高校無償化により下方圧力、10月よりたばこ増税により上方圧力がある。