もし白川方明がバーナンキの「日本の金融政策に関するいくつかの論考」を読んだら

2011年4月1日、日本銀行総裁白川方明バーナンキの論文「日本の金融政策に関するいくつかの論考」を片手に緊急政策決定会合を終え記者会見しました。

今まで日本銀行は「海図なき航海」に出航して依頼、ゼロ金利緩和解除、量的緩和解除、リーマンショック後の協調利下げの不参加と失敗を重ね、日本経済を漂流させてきました。そして、その失敗を何とか正当化すべく「内外価格差論」や「人口減少デフレ論」を言い訳にフロントランナーを自負してきましたが、気づけばリーマンショック後にデフレから脱却できない国はジンバブエと日本だけで周回遅れとなっていました。


そこで本日、緊急政策決定会合にて過去のデフレターゲットを改め、日本銀行の目的である「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」ために以下の事項を決定致しました。


・過去のデフレを取り戻すべく、物価水準目標(プライスレベルターゲット政策)を導入します。
・物価水準の目標の経路に達成するまで出口戦略は取りません。
・その手段として根拠のない銀行券ルールを撤廃し、長期国債の買い入れ額を増額します。



以下質疑応答にお答えします。

デフレ期間が物価に与えた影響を相殺するためのリフレ期間を設置するのものです。*1
また、エガートソン=ウッドフォードは、インフレ目標よりも物価水準目標を公表することのほうが、短期的インフレ予想を引き上げるのに効果的である、と主張しています。

      • リフレ政策の利益は

債権者と金融システム全体に対する強い圧力を部分的に緩和することにあります。*2

      • 金融政策はゼロ金利制約になっているが

エガートソン=ウッドフォード(2003)では、名目利子率がゼロもしくはゼロ近くにある場合、中央銀行は国民のインフレ予想を作り出すことによってのみ実質金利を引き下げることができる、と指摘しています。*3

      • 物価水準目標はインフレ目標より短期的に高いインフレにならないか

判断の問題になります。
第一は、デフレ以前の物価水準へのより迅速な回復が実体経済にもたらす利益、第二は、日本銀行が国民の期待感を醸成するにあたり、公表された物価水準目標がこれを支援するという事実、および一過性の物価水準訂正と日銀の長期的インフレ目標とを区別できるということです。この区別がなされる場合、インフレ予想と長期的な名目利子率に対するリフレ政策の影響は、この区別がなされずリフレ政策が恒久的にインフレを加速するものとしてみなされる場合よりも、小さなものとなるはずです。*4

      • バランシートを毀損するのではないか

日銀のバランスシート・ポジシヨンがその通常業務の運営能力に与える影響には二つのものしか考えられないように思われます。
第一は、もし日銀の利益が低すぎて経常支出予算を賄いきれない場合、日銀は財務省に対して補填資金を予算要求せざるを得なくなるでしようが、このような事態は日銀の独立性を危うくすると日銀は危惧することでしよう。
しかしながら、こうした理由だけで日銀がより積極的な金融政策を躊躇するということには必ずしもならないはずです。なぜなら、利回りがゼロではない追加的資産の購入が、仮にこれらの資産がリスキーで流動性に欠けるとしても、日銀の経常利益を通常は増加させるからです。第二は、日銀が保有資産について大幅なキヤピタル・ロスを被つた結果、金融政策の目的を達成できる規模で有価証券を公開市場において売却することができなくなるという場合が考えられますが、これは現実味には乏しく、想像上の可能性にすぎません*5
それでもなお心配ならば、ボンド・コンバージョン(金利スワップ)さえあれば日銀のバランスシートは守れます。

もちろん、何事もただで手に入れるというわけにはいきません。財政の観点から見れば、国債マネタイゼーション国債とマネーの代替)が増加することは、 一般の税金をインフレ税に置き換えたにすぎません。しかし、デフレに取り憑かれた日本という脈略でいうと、インフレ(およびこれと結びついた名目支出の増加)を多少創出することは、景気回復と不稼動資源の再活性化を促進するという目的達成に役立つでしょうし、ひいてはこれが税収増をもたらし、政府の財政状況を改善することになるでしょう。*6


それから10年後の2021年、日本経済は平均で名目4〜5%成長、税収も自然増となり財政危機は遠ざかりました。
過去の日銀と決別した白川方明総裁は、再任され「日本のバーナンキ」と海外メディアからも功績が讃えられています。

*1:「リフレと金融政策」ベン・バーナンキ 高橋洋一訳P121

*2:P125

*3:P126

*4:P128

*5:P131-132

*6:P139