不況の浄化作用

「新しいマクロ経済学斎藤誠著でP258不況のメリットについて触れている。

Aghion and Howitt, 1997, Endogwnous Growth Theory,の第八章を引用している。

『「不況の浄化作用」(clwansing effects)は
第一に、不況期に低生産性の企業や事業が淘汰されて、経済全体の生産性が向上する可能性がある。
第二に、労働や資本などの生産要素が割安な不況期に、企業の生産組織の再活性化が図られる可能性もある。さらに、不況期の方が、生産要素価格が低下して投資活動の収益率が改善するケースも考えることができる。
第三に、不況期に企業の自己資本価値が低下して、負債比率が上昇することがかえって、企業経営に規律を与えることもある。
第四に、もし不況期に企業間の生産性格差がはっきりとすれば、優れた企業を淘汰し、劣った企業を選択するという過ちを避けることができる。


(中略※数式は本を読んでいただきたい)


(参入コストが参入企業数にまったく依存しないケースでは)需要水準の変動は、編入数の変化によって完全に吸収され、退出企業年齢の高低を通じて退出数が変化することは一切ない。いいかえると、需要が減退する不況期においても、退出企業年齢が低下して、企業淘汰が促されるわけではない。カバレロとハモアーは、このような現象を「総需要の退出企業年齢への影響が遮断される」と表現している。(insulation effect)

しかし、参入が集中すると、参入コストが増加するケースでは、総需要が高まると好況期において企業参入がコスト高となり、逆に総需要が低下すると不況期において参入しやすくなる。その結果、総需要の変動は、参入数だけでなく、退出数を通じても吸収されるのである。(中略)
不況期に退出企業が若年化して、企業淘汰が促されることを示すことができる。』


今の日本経済にあてはめて考えてみると
第一は、雇用調整助成金などは現在の企業の保護であり、淘汰を遅らせて生産性を下げているとも言える。
第二は、政府の財政支出で生産要素の価格の低下を阻害しているとも言えるが、デフレであり名目賃金の下方硬直性がある以上は、生産要素の価格の低下がない方が望ましいのではないだろうか。
第三は、たしかに、企業規律や経営の危機感を乗り越えれば、一段と強い財務体質の企業になるであろう。しかし、ショックが大きすぎて、債務超過に陥ったり、倒産することも考えられる。
第四は、JALなどの問題に関して、不況期にANAJALの生産性格差が誰の目にも明らかになり、JALは倒産に追い込まれた。劣った企業を選択したかどうかは、今後の経営次第だろう。


いずれにしても、参入コストが参入企業数に依存しないケースが良いであろう。そして目指すべきは不況がなく、好況期の中で淘汰されていくべきではないだろうか。
ただし、今回の不況は100年に一度も言われ落ち込みも激しく、激変緩和措置をとることは十分に理解できる。
どの程度のバランスをどる取るかは政治の判断であろう。