デフレのミステリー

Deflation Defies Expectations—and Solutions、デフレ期待マインドと解決法という記事をJON HILSENRATH がWSJで書いている。(http://online.wsj.com/article/SB10001424052748704249004575384944103200032.html?mod=rss_economy)

要約すると記事では大恐慌と比べて日本のデフレはマイルド。
大恐慌アメリカでは1932年にCPIが10%のデフレ、1929-1933年にかけて27%も物価が下がった。
日本は15年間続いているものの、毎年2%以下のデフレである。

ではなぜ破壊的なデフレスパイラルに陥らないのか、これから世界で起こる予兆なのか?

エコノミストは良い答えは持っていない。
ポーゼンは「デフレがどのように働くのわからない。数年間フラットのデフレがしっかりと合理的に説明できない」という。

Fedや他の中銀はデフレ期待になっている。アイルランド、スペインはもうデフレ期待だし、Fedは暗黙のインフレターゲットは1.5-2.0%だが、6月のインフレ率は1.3%だった。一部の官僚は景気の腰折れを心配している。

日本はデフレスパイラルの候補だったが、潜在成長率を下回って成長し続けた。10年間で失業率は2.1%上がっただけだった。大きな銀行の不良債権は社会に負担をさせたが。


古い金融の教科書ではこんなことは起こらない。
フィリップス曲線ではインフレ率と失業率はトレードオフでインフレ率が低下すると失業率が上昇する。

日本の失業率とインフレ率の関係は謎のままである。

日本とアメリカ政府の危機への対応の違いもある。

アメリカは日本より、迅速に金利を下げ、財政出動をし、銀行を精算し、非効率的な産業の構造改革を行った。

Mark Gertlerは日本の対策は経済を生き返らせるほどは足りなかったという見方もある。

また他の意見では、日本は高齢化が進み、退職後のために貯蓄を増やし、消費をしたがらない。これらは需要と物価を押し下げる。


そして政策担当者はデフレの理解が十分ではなく、解決法を持っていないと結んでいる。



このパズルをクルーグマンが取り上げている。(http://krugman.blogs.nytimes.com/2010/07/26/mysteries-of-deflation-wonkish/)


FriedmanとPhelpsの自然失業率仮説を引用してインフレ調整後のフィリップス曲線を出すと

実際のインフレ率 = A + B * (需給ギャップ) + 期待インフレ率 (A、Bはパラメーター)
期待インフレ率は過去数年の経験を反映し、ディスインフレになると景気が抑圧され需給ギャップが負に、インフレが高くなると景気が加熱し需給ギャップが正になる関係にある。

インフレ調整後のフィリップス曲線はデフレを予想するわけではないが、継続的な加速するデフレは経済を暴落させる。十分に抑圧された経済ではインフレ予想が3%でも実際のインフレ率は1%になるだろう。それが続けは-1%,-3%,-5%となっていく。

しかし、現実には起こらない。大恐慌では実体経済が崩壊してから急激に物価が落ち始めた。しかし、景気が回復すると大きな負の需給ギャップがあっても上昇した。
今の大学1年生が生まれる前からずっと日本は不況(depressed)が続いているが、物価が負のスパイラルにはならなかった。
Mr. Janet Yellin, aka George Akerlof, and co-authorsらは名目賃金が価格と賃金の硬直性ために負のスパイラルにならないことを書いている。

なぜこれが重要なのだろうか

ひとつはどのように緩やかなデフレが続くのか説明すること。

二つめはゼロ金利制約の近くではインフレ率を高めにする、低めだとゼロ金利にブロックされる。フィリップス曲線は低いインフレ率の時に垂直ではない、長期的に失業率を下げたい時には物価の安定よりも4%のインフレ率にする。

三つめはアメリカの9%に高止まりする失業率と毎年1%のデフレに定まることを恐れること。

結局、負のスパイラルに陥らないために不景気が続かないように焦点を当て議論すべきである。





以上の二つの記事や最近のアメリカの動向を見ていると、アメリカは非常に景気を気にかけていることがわかる。
また対応のスピードも日本よりも断然早い。
果たして日本のエコノミストや経済学者や政策担当者でこういった積極的な意見があるだろうか。
景気の悪い時の消費税増税や将来の社会保障の話はもちろん重要だが、足下の景気の議論が活発とは言いがたい。

フィリップス曲線は短期的にはトレードオフの関係にあることに目を向けて目先の景気をどうするべきか政策担当者には大いに議論してもらいたい。