水野和夫氏の経済感

内閣府審議官に水野和夫氏が起用されることになった。


今年の1月17日のサンデープロジェクト
「短期的には需給ギャップ35兆あるからやらなきゃいけないというのもわかるが、それは90年代からずっと需給ギャップが拡大してて、その結果国の借金が92,93年の300兆円から今は860兆円になっている。今起きているリーマンショックと90年代の日本で起きたことは、日本で起きたことが全世界に広がっておきている。日本が10年間やって失敗してきたことをもう一回さらにやるというのは、また借金が積みあがるだけであまり効果が無い。35兆円の供給力が大きすぎる。」

と発言しており、財政出動には否定的である。需給ギャップを埋めるには財政出動というよりも供給力が大きすぎるということである。



また6月10日には経産業新聞の記事では財政再建については
「歳出削減や増税による財政赤字縮小への期待が高まれば、理論上は円高・低金利を招きやすくなる。産業界は輸出採算の悪化を恐れているが、新興国などの実需によって資源価格が高騰している状況では円高による調達コスト押し下げというメリットがある」
つまり財政均衡を目的とした緊縮財政は円高、低金利になるが、円高は歓迎している。資源価格が高騰している中で調達コストを押し下げるメリットがあるというのは交易損失を念頭に置いているのだろう。

また同じ記事で
「目先の円高にうろたえて政府が市場介入し、無理に円安へ誘導すべきではない。むしろ円に信用力があるうちにアジア域内で流通を促進(国際化)すれば、円建て決済が増えて企業の為替リスクを抑えられる。長期的には中国などとの域内共通通貨構想が議論されるようになった時に交渉を有利に進められる」
円安介入にももちろん否定的である。


「確かにアジアを中心に海外の成長を取り込まない限り日本の経済力は低下する。しかし、自国の経済成長のためだけに外需を取り込むという姿勢が強まると相手国の信用を損なう」
この発言の真意は正直言ってよくわからない。比較生産費説やグローバル化に反対しているのだろうか。



消費税については

増税の場合は段階的に税率を引き上げる。その間は景気を押し下げる要因になる。ただ、日本の消費税にあたる付加価値税を既に10%以上に高めている国をみると、経済の高成長がなかった一方で下がり続けたというわけでもない」
景気の押し下げ要因というなると認めていることは、増税して景気が良くなると言っている管総理とは異なり正しい見識である。



デフレに関しては

「菅氏は昨年、デフレを宣言したが、個別産業の育成を後押しするような、従来型の成長戦略を新たに打ち出したところで、日本がデフレから脱却できるとは考えられない。2002〜03年ごろ以降の日本のデフレの根本原因は、海外への原油の支払代金が増えたにもかかわらず、売上高の伸びがそれに比例して増えないところにある。日本がデフレから脱却するには、原油代金を海外に過剰に流出させない方法、例えば、代替エネルギーの開発など環境対策を進めることが重要だが、それは昨年のマニフェストに掲げたはずだ。
 マニフェストにはアジアの成長を日本経済の追い風とするための、東アジア共同体構想も掲げた。本来、米軍普天間基地移設問題も、アジアとの共生という観点から、取り組むべき課題だったはずだが、そうした大局的な議論にはならなかった。民主党には、国民に示した政策を統合し実行する力が求められている。」(2010/06/04,, 日経速報ニュースアーカイブ)

02年からの景気拡大期にデフレが続いたのは、交易損失であるという考え方である。ただ、前者の個別産業とも関連するが、フランスなどは原油価格が高騰しても、原油で儲けた中東諸国にブランド品などを輸出していた。もちろん交易損失とデフレの関係はこれだけでは何の説明にもなっていない。


2010.05.18のエコノミストではこの交易条件について述べている。

財政問題は先進国にとって最大の問題だ。デフレの克服よりも、財政赤字からの脱却を優先しなければいけない。「財政非常事態宣言」を今こそやるべきだ。この問題を解決できなければ、先進国から脱落する。
 今は日本国債の大半は国内投資家が持っているが、高齢化が進んで貯蓄率が下がり、国内で消化できなくなると、外国人に持ってもらう必要がある。そのためには金利を上げないといけないが、利払い費は膨らむ。すると財政状況が悪化して、円の価値が下がる。海外から買う原油などの価格は実質的に値上がりし、高い金利で利子を払うため、日本の富はどんどん海外に流出する。それが先進国から脱落するという意味だ。
 政治家はよく、景気の悪化を「火事」に例え、「火事が起きているのに財政赤字を心配するのか」と言う。だが、今燃えている家を費用をかけて残しても、成長を前提とはしない将来の社会には適応できない。
 日本の借金は国内総生産(GDP)の2倍。体重の2倍の砂袋を抱えている。増税や歳出削減で生活水準が下がったとしても、それは借金を膨らませた過去のツケを払うのだから、やむを得ない。
 世界中の投資家が新たな収益機会を探している。狙われるのは一生懸命に「成長するから大丈夫だ」と説明している国だ。例えば、財政赤字に苦しんだギリシャ増税や歳出削減を避けて、成長で解決しようとした。成長をあてにした言い訳に無理があるとして、市場につけ込まれた。
 ギリシャの財政危機は公務員給与の高さなどから、特別なケースとの見方もあるが、特殊性はどの国にもある。日本は高齢化が早く、社会保障の負担が重くなっている。問題が明白なのに対応できていない点はギリシャと同じだ。
 日本国債にとって最大の脅威は、中国の人民元の自由化だ。そうなれば、利子がほとんどない円の預金より、人民元の預金の方が好まれる。今は日本国債を持っている日本の銀行も、円の預金が減って人民元の預金が増えれば、円の資産を減らす。つまり、国内の資金だけでは国債を持ち続けられなくなる。
 人民元の自由化は10年以上先だろうが、視野に入るのはもっと早い。それを見据え、明日からでも財政再建に取り組むべきだ。」

確かにそういった交易損失のシナリオになる可能性はあるだろうが、先進国から脱落するというのは意味が分からない。経常赤字国になると先進国から脱落するのだろうか…?
「財政非常事態宣言」などして来てもいない狼を呼び寄せるのか?

デフレ脱却より財政再建を優先するというのは理解しがたい。
財務省の慎重な見積りでも名目成長率と税収の伸びの弾性値は1.1であり、成長なくして財政再建はないだろう。
ギリシャは成長で解決しようと言っていたから危機になったと言うが、ギリシャの場合は財政を粉飾していたから危機になったのである。日本は例えば小泉内閣では実質で2%以上成長している。菅政権の目指す実質で2%成長が不可能とは思えない。



5月3日号のアエラにて
「本気でリフレ策(インフレターゲット政策)が財政再建の切り札といっている識者がいまだにいるとは驚きです」
述べている。
2%のインフレ率になれば、財政再建に寄与することは間違いない。実質と共に名目成長も重要である。


つまり以上をまとめると水野和夫氏は日本の成長にはもう限界にきているので、財政再建増税や歳出カットをすべきであるということだろう。

それを端的に示しているのは朝日新聞2009年09月18日「内閣への注文 ゼロ成長時代のモデル築け」という記事だろう。

「新ゼロ成長のもとでも豊かに暮らせるというモデルを、ひるまずに築いてほしい。選挙を通じて民主党が示してきた政策の中にも、新たなモデルづくりの芽はある。
 パイを大きくすればなんとかなった時代は石油危機で終わったのに、自民党はゼロ成長時代への転換を図ることなく成長にこだわり、インフレとバブルでつじつまを合わせてきた。それは結果として、せっかく築いた一億総中流社会を崩し、入れ替え戦のない1部と2部のリーグに社会は分断されてしまった。
 子ども手当とか高校までの教育費の事実上無料化といった民主党の政策は一見バラマキのようだが、本来は分断された社会を元に戻す努力の表れだ。ところが自民党から成長戦略がないと批判されると、一連の政策は内需振興に結びつくなどとつくろってしまう。相変わらず成長戦略などと言っている自民党自民党だが、ひるんでしまう民主党もどうか。
 国民の関心は景気対策にあると言われるが、かつてと違い生産の回復が所得や雇用、個人消費の回復に結びつかない。原油など資源価格の高騰によるコスト増を人件費で吸収している現状では、なまじ生産が増えれば働く時間が増えるだけ。国民はそういう景気回復を求めているのではない。
 人口の減少で内需の伸びは期待できない。外需もモノの輸出に頼っているかぎり資源高騰で引き合わない。そういう経済構造の転換を知ってか知らずか民主党が打ち出した再分配の政策は、時代の流れに沿っている。
 新しいモデルでは、アジア重視の姿勢と、「成長がすべてを解決する」という20世紀モデルからの脱却の二つが重要だ。
 グローバル化の中で、先進国が400年かけて手にした豊かさを、新興国の30億人は1、2世代で手に入れようとしている。最終ユーザーはいまやアジアだ。鳩山由紀夫首相、岡田克也外相のアジア重視外交は、リーマンショック後の世界はユーラシアの時代という潮流に平仄(ひょうそく)があっている。
 ただ、輸出の中心はモノではなく、サービスや知的所有権に関する分野にシフトするべきだろう。「ジャパンクール(格好いい日本)」をアジアの内需にどう結びつけるか。アジアの人が抱く日本人の生活スタイルへのあこがれを本物にする脱近代モデルを示さねばならない。
 脱石油も、同じ視点から重要だ。鳩山首相が打ち出した温室効果ガスの大幅削減は経済界には評判が悪い。だが、途上国の負担の上に富を築いてきた先進国が、今度は負担を引き受けなければならない以上、厳しい目標を示すことで国際的な支持を得られるはずだ。
 内閣基本方針には、経済合理性重視の経済から人間のための経済への転換を目指し、国が予算を増やせばすべての問題が解決できるものではないとある。成長がすべてを解決する時代が終わったというメッセージであり、これまでの自民党政権との違いがはっきりと表れている。
 70年代以降の遠回りで失った分を取り戻すには10年でも足りない。新内閣は少しずつ独自性を発揮していけばいいが、成長戦略がないと批判されても、むしろそれを持たないほうが21世紀の潮流にマッチしていると考え、成長志向の名残を一掃してほしい。」


つまり、もう成長の時代は終わった、名目成長を目指すのはおかしい。70年代に成長はとまったのに自民党政権が成長を続けようとしたから一億総中流が崩れ去り格差が広がった。
成長を目指すのをやめて一億総中流を取り戻しみんなで沈み行く泥船に乗ろうということだろう。
大変ご立派な日本衰退論者であり、社会主義者である。


小野善康神野直彦、水野和夫といった菅総理のブレーン体制が出来上がった。
我々にはもう菅総理にNOをつけるしかないのだろうか。