池尾和人氏へ反論
池尾氏はアゴラの記事に追記を書いている。
[付記]2010.8.2
日本銀行が「「物価安定の理解」で念頭においている消費者物価は、CPI(総合除く生鮮食品)なので、その上昇率を用いた。しかし、米国のコアCPIとは定義が違い、エネルギー価格が含まれており、それを除いたコアコアCPIを使うとイメージが違ってくるとの指摘があったので、食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数を使った図も載せておく。なお、元の図にも係数の取り違いのミスがあったので修正した図に差し替えた。しかし、何が「あまりにもひどい」のか、「根本的な欠陥」なのか理解に苦しむ。
まず彼は昨日とは画像を差し替えている。
コアCPIでも1ポイント程度高くなっているが、ここについて訂正はないので
池尾氏の「悪化のピークからはかなり改善してきているといえる。」という点に変更ないものと思われる。
では話をコアCPIかコアコアCPIかという話に移そう。
池尾氏はtwitterで
「日本はまだ高止まりしているとはいえ、悪化のピークからはかなり改善してきている」というのは、現状に関する大方の共通認識だと思うけれどもね。いまなお、リーマンショック直後と同等の悪化水準にあるという判断をしているシンクタンクその他のレポートってある?(続く)
政府の月例経済報告も「景気は、着実に持ち直してきており、自律的回復への 基盤が整いつつあるが、失業率が高水準にあるなど 依然として厳しい状況にある。」という基本認識。こうした事情がコアCPIを使うとよく見えるが、コアコアCPIを使うとかえってみえなくなるというだけでは。
高止まりしていたのは、「日銀失敗指数」のはずである。
日銀の金融政策がどのくらい失敗したのかを表す指数であり、その失敗の程度を数値化したものが高止まりしている。
なぜ現状の共通認識やリーマンショック直後の悪化水準にあるというシンクタンクの判断やレポートになるのか不明である。
論理の飛躍もさることながら、すさまじい論理のすり替えである。
そして、さらに驚くべき点は月例経済白書とコアCPIを結びつけている点である。
コアコアCPIよりコアCPIの方が自律的回復がよく見えると池尾氏は主張しているのである。
もし、本当にそうであるならば原油価格高騰=エネルギー価格の上昇が自律的回復ということになる。
BPの石油流出事故やOPECの価格カルテルを歓迎すべきなのだろうか。
これは一般の経済学では理解出来ないだろう。まして池尾氏は交易条件に言及しているが、そのような原油価格高騰では交易条件がますます悪化すると誰もが思うであろう。
日銀が失敗したまま高止まりしていることはグラフから読み取ることができるが、月例経済報告との関係性は全くない。
ここでFedfailをつくったクルーグマンのマクロ経済を開いてみる。
エネルギー価格や食料品価格を排除したこの指標(筆者注:日本語のコアコアインフレ率のこと)は、インフレの基調的なトレンドを示す指標として、全体の物価水準を示すCPIよりも優れている
と書いてある。
氏のよく言う「学会の常識」はどこへ行ったのだろうか?
ましてクルーグマン教授というノーベル経済学賞を受賞した人が学会の常識、コンセンサスではないのか。
そして池尾和人氏のつくった、コアコアCPIのグラフとクルーグマン教授のグラフを比較する。
瓜二つである。ポイントは水準の高さではなく変化の方向である。
日銀とFedに差があるようには見えない。依然、失敗したまま高止まりしている。
では仮にコアCPIでエネルギー価格の上昇が日銀の金融政策の成功としよう。
ここでポイントとなるのは昨日も言及したが、潜在失業率で考えないといけないことである。
雇用調整助成金で約3.5%が政策効果で失業しないですんでいる。
しかし、日銀のコアCPIとしても潜在失業率で考えるのは当然である。
アゴラの記事にも実質失業率は8.8%という記事がある。(http://agora-web.jp/archives/707385.html)
池尾氏の指標にはこの観点が抜けているので、足してみよう。
平成20年の3月から対象者数が200万人に増えているのでここから3.4%ずつ加算する。
この雇用調整助成金が失業率を抑えているという点は08年3月以降にNAIRUからも観測できる。
ただ4%をOECDの通りNAIRUだとするとコアCPIはデフレのまま07年には失業率がNAIRUを割り込んでいる…
そして、次なる問題はtwitterでの池尾氏の次の発言である。
じゃ、認識自体に大きな問題がないとすると、日本についてはコアコアCPIを使った指数よりも、コアCPIを使った指数の方が妥当性が高いということだね。指数というのは現実を要約するために作るんだから。
話が若干元に戻るが、ここでいう指数が表す現実の要約というのは、日本銀行が達成できなかった物価と失業率の乖離である。決して月例経済報告ではない。現に日本銀行は小泉内閣で00年から07年までデフレであったが、景気は拡大していた。
しかも池尾氏はアゴラの記事で
これら2つをテーラー・ルールの係数をウェイトにして加重合計したものが、クルーグマン教授の提案する連銀失敗指数である。具体的なウェイトとしては、インフレ率に2、失業率に1.3が用いられている。これは、金融政策の議論で一般に「損失関数(loss function)」と呼ばれているものの一例である。乖離の絶対値の代わりに、その2乗がもちいられることも多い。
と書いている。
これは正しい解釈である。
このFedfailやBOJfailは社会厚生関数(厳密には社会損失関数)である。
1.3や2というのはウェイトを表している。今回の場合は失業率よりも物価安定の乖離にウェイトを大きく置いている。
最後に私は真意が理解出来ない池尾氏の発言がある。
米国でも日本でも、失業率やインフレ率が中央銀行の政策だけで決まるわけではない。当然、他の施策の影響も受けている。その意味では、FedfailとかBOJfailという表現は、そもそもミスリーディングで、経済の全般的な状況を簡略化した指標と考えるべき
なぜ「日銀失敗指数」を持ってきて『悪化のピークからはかなり改善してきているといえる』
と言ったのだろうか…
※【追記】
池尾和人氏は日銀の物価安定のターゲットはコアCPIだということにこだわっているが、
sayokudesugaさんの日記(http://d.hatena.ne.jp/sayokudesuga/20100802/)に今回の件の本質があった。
>で、さらにナイスつっこみ。
>まあそもそも論として雇用安定をターゲットとしていない日銀に当てはめていいのか、という突っ込みも出来るけど。。。
その通りである…