池尾和人氏の清算主義と産業政策

池尾和人氏がアゴラに中国の台頭と日本経済−−池尾和人という記事を書いている。


池尾和人氏は

換言すると、2010年代以降、日本経済が復活するためには、産業構造の高度化が不可欠である。産業構造の高度化には、スクラップとビルドの両方が必要になる。スクラップとは、もはや中国や韓国に譲った方がよい産業分野から撤退することである。それは、例えば、町工場で中小企業が担っているような分野である。町工場に働いている人々には、全く何の非もない。いままで以上にまじめに一生懸命に働いている。しかし、その生活は益々厳しくなっている。そうした人々に撤退を促すような非情なことはできないというのが、これまでの政策対応の基本スタンスだった。

町工場や中小企業にも例えばNASAから受注を受けていたり、グローバルシェアが高い企業が少なくない。
なぜ中小企業や町工場という区別するのかわからない。


しかし一番重要なことは産業政策であろう。


かつて池尾和人氏は産業政策について

また、典型的なターゲティング・ポリシーであったかつての産業政策が(戦後直後の時期においてさえ)有効なものでなかったことは、東京大学の三輪芳朗さんの精力的な一連の研究(例えば、『産業政策論の誤解―高度成長の真実』東洋経済新報社、2002年等で明らかにされている。

産業政策がうまく行くものではない基本的な理由については、5月30日付けの 金融日記に書かれていたので、ここでは省略する。同記事を参照して下さい。また、池田さんも同趣旨の記事を最近書かれています。

政府が成長分野だと分かるような分野については、とっくに民間は成長分野だと認識しているはずである。にもかかわらず、そこに十分な資金や人材といった資源が流れないとすると、何らかの制度的障害が存在すると考えられる。そうした制度的障害を取り除いて、資源の再配分(reallocation)を容易にするような環境整備(例えば、労働市場や金融資本市場の機能強化)をすることが、政府の役割であり、成長政策である。


政府は成長産業がわからなくとも、民間の経済学者は衰退産業がわかる。だから町工場、中小企業は撤退せよという物言いである。
では民間の池尾和人氏の指名した衰退産業を政府が衰退産業と選んだらどうなるのだろうか。明らかに矛盾している。


また、池尾和人氏は取り上げていないが、米国の大物経済学者が警鐘!「世界経済危機の第二波が近づいている」 ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授(元IMFチーフエコノミスト)に聞く では金融政策についても取り上げている。


財政に対する長期的なアドバイスとして

日本政府に対して二つのアドバイスをしたい。
 ひとつは、国債の満期構成を長期化させることだ。繰り返すが、危機は来る。短期金利が実質ゼロだからといって、短期でつなぐ誘惑に負けてはならない。たとえ高くついたり、一時的に財政赤字の拡大を招いたとしても、満期構成の長期化は危機の第二波に対する安い保険となる。

 第二に、2%程度のインフレを目指すべきだ。債権者に下落した通貨価値での返済を押しつけるインフレは、債務問題のフェアな解決法とは言えないが、債務負担を軽減させる有効な手段であることは明らかだ。

日本銀行は素晴らしいリサーチスタッフを抱え、総裁は聡明であり、とてもプロフェッショナルな組織だが、ことインフレについてはスタンスを改めるべきだと思う。いまや、米国のFRB連邦準備制度理事会)の中からでさえ、3〜4%のインフレを目指すべきとの声が聞かれる。日本も、インフレターゲットでも、日本流のオリジナルバージョンでもいいから、早く発想を切り替えるべきだろう。

以前から数多く指摘されていることだが池尾和人氏はどうも都合のいいところだけを引用して解釈している節がある。(例えばtwitterでのバーナンキクルーグマン発言の引用など)


ロゴフ教授も日銀の姿勢に対して転換を求めているのである。これに池尾和人氏はあえて触れていないだろうがこの記事の一部分だけ賛成なのか、全て賛成なのかはっきり示していただきたい。