池尾和人氏の命題の迷走

池尾和人氏がアゴラで「量的緩和」という物語・その2という記事を書いている。

<命題>
財政スタンス(財政赤字の累積額)が一定である限り、中央銀行がどれだけバランスシートを拡大させても、民間金融機関の貸出が増加しないならば、マネー・ストック(貨幣供給量)は増大しない。

そして命題として量的緩和無効論を説いている。(ただし、アメリカでは効果がある可能性ありと言及)


しかし、現実に「中央銀行がどれだけバランスシートを拡大させても、民間金融機関の貸出が増加しない」という前提が成り立つだろうか。


民間金融機関の貸し出しは、金利左右される。
金利が下がっても、銀行の貸し出しが増えないという現象は考えにくいので、当然金利が下がれば、設備投資などの需要が増え、民間金融機関の貸し出しが増加する。


では、財政スタンスが一定で、中央銀行がいくらバランスシートを拡大させても金利は下がらないのだろうか?


答えはNOである。
金利が下がるケースとして2ケースある。
ひとつめは、期待インフレ率の上昇である。(=実質金利の低下)
そして、二つ目は長期金利の低下である。(=名目金利の低下)
短期金利は0.1%であっても、長期金利は1%程度ある。


では、仮に池尾氏の命題に沿って、期待インフレ率も長期金利も動かなかったとしよう。
長期金利が不変であるならば何が起こるのか。


政府はツイストオペをすべきである。
長期金利が動かないのであれば、すべて低金利である。1%で長期国債を借り替えてしまえば良い。そうすれば、将来インフレ率が上昇したとしても利払いを1%のままかなり有利に安く抑えることができる。
ツイストオペはれっきとした国債管理政策であるので、極論ではない。


以上のように、いかに池尾氏の命題が意味を持っていないかがわかる。
銀行貸出が不変であるなどあり得ない。本当に起こりえるならば、アゴラではなく論文として出してはいかがだろうか。