岩田規久男教授のインフレ期待論

先日、池尾氏の命題を否定したところ「現実には、銀行の貸出が増えていないじゃないか」という反論を多数頂いた、これは名目金利と実質金利の区別ができていないということだろうが、岩田規久男教授がエコノミストでこれに対応した答えを示している。


―― 金融緩和しても、銀行貸し出しは増えずマネーサプライは増えない、と疑問視する意見もある。
岩田 今の日本は、家計よりむしろ企業がカネ余りだ。デフレ下では、家計や企業は支出を先延ばしにする。だが中銀がインフレ期待を起こすと、家計や企業は物価が上がると予想して、早めに余った現・預金で株式や外債を買ったり、消費や設備投資や住宅投資に支出し始める。
 つまり、銀行が貸し出しを増やさなくても、1単位の貨幣がたくさんの取引を媒介し、貨幣の流通速度が速まることで貨幣が増えたのと同じことが起きる。貨幣の流通速度の上がり方が限界に達した時に初めて、借り入れ需要が出てくる。1930年代の世界大恐慌でも、日本の昭和恐慌でも、脱出から3〜5年経って銀行貸し出しが増え始めた。これは過去の例からも実証されている。
週刊エコノミスト2010年11月16日号)

先日、名目長期金利が下がる経路と期待インフレ率が上昇する経路を示したが、これは後者の理論である。